映画『悪人』

映画『悪人』の試写会に行ってきました。

出演者 妻夫木聡
深津絵里満島ひかり岡田将生樹木希林柄本明宮崎美子余貴美子 他 

小さい頃に母と生き別れ、祖父母に育てられた祐一は、働きながら祖父母の世話をする毎日があるだけで、女性と知り合う機会もなく孤独の中で生きていた。

ある日、出会い系で知り合った女性に屈辱的な態度と言葉を投げつけられ、カッとして殺してしまう。

その日、以前出合った事のある光代からメールが届き会う約束をする。

似たような変化のない生活と孤独の中で生きていた二人は、お互いに惹かれ合い求め合ってゆくが…
そして二人が選んだ道は逃避行であった…


人はいつ誰と出会うかは誰も知らずに生きている。
もし、もう少し前に出合っていたら…
もし、この時違う行動に出ていれば…
分かっていたら、悪人にはならずに済んだ人が沢山いるのだろう。

誰の目にも見えない、複雑な糸の絡み合いの中で人間は生きている。
どの糸を辿っていくのか、どの糸を引いてしまうのか、この偶然と必然の中で人生が決まってゆくのだろう。

二人が逃げて行く日本最西端の灯台の先には、広々と果てしなく広がる水平線が…

その先に待つのは悲しい別れしかないのに、ただ離れられずに、明日に怯えながら終りを迎えてゆく。

そんな二人を見てただ悲しく、切ない…


妻夫木くんも深津さんも、情感のある深い演技で最後にはぐっと迫るものがありました。

妻夫木くんが、是非とも自分が演じたいと望んだ悪人役は、本当の悪人ではないように思います。
良い人役が多いから汚れ役をしてみたかったのか…と、見るまでは思っていたのですが、そうではないのでしょう。
起伏の激しい性格、刹那の愛、色んな葛藤…演じる者にとっては面白い人物であったと思います。

あの妻夫木くんが…と思うほど冴えない男で出てきます。
悪人である時に表情がぐわっと変わるのは見事。

脇も熟した演技で、特に最後の樹木希林さんの顔がアップで映る時の表情は忘れられない。

音楽は久石譲さん。
さすが、彼の音楽は本当に情景を美しく描き出しますね。

その音楽をバックに映し出される、この映画のシンボルともなる灯台
長崎、五島列島福江島にある大瀬崎灯台
実は私は2度ほど行った事があります。
見た事のある灯台だと映画の間中思っていましたが、予想通りでした。

駐車場から2?ほど歩き最後には登りの階段になっていて、ちょっと行くにはしんどい場所。
でも、ここから見る海は美しく果てしなくロマンチックです。
この映画でも、美しさと孤独や厳しさが、灯台や海の景色とオーバーラップして素晴らしい映像に仕上がっています。


ドキドキハラハラするわけでもなく、ただ静かに淡々と進んでいく物語。
一体誰が本当の悪人なのか…
誰でもがいつ悪人になるか分からない…
そんな怖さを含んだ、だけど、最後に一筋の涙が伝う…そんな心の奥深くにじーんと来る映画でした。